LTVは、顧客との取引期間全体で生まれる価値を考える指標です。ただし「売上の合計」と「費用を差し引いて残る価値」は同じ金額ではありません。計算するときは、何を価値として数え、どこまでの期間を対象にしたかを明記します。
物販では購入額を積み上げ、継続課金では顧客が各月に継続する見込みを掛け合わせると、計算の意味を確かめやすくなります。「月の粗利÷月次解約率」という簡単な式には、解約確率が全顧客・全期間で一定などの条件があります。
この記事では売上と粗利を同じ架空例で計算し、24か月の値と生涯予測、ゼロ解約の扱いを比較します。自社に近い状況から読み進めてください。
- 物販の購入履歴がある場合:顧客ごとの購入額と粗利を積み上げる例を確認します。
- 継続課金の場合:各月の継続見込みを掛ける例から、簡略式が使える前提を確かめます。
- 観測期間が短い・解約がまだない場合:同じ期間の実績と将来の仮定を分ける方法を使います。
目次
最初に金額の意味と計算期間を決める
LTVという名前だけで比べず、「売上か粗利か」「実績か予測か」「何年分か」を併記します。
Fader・HardieのCLV公式の整理では、初回の利益を含めるか、いつ生じる価値かによって式が変わります。CLVはCustomer Lifetime Valueの略で、ここで扱うLTVと同じ顧客生涯価値の文脈です。
以下では、獲得費を差し引く前の売上・粗利を区別します。粗利は売上から商品やサービスの提供原価を引いた範囲とし、一般管理費など全ての費用を引いた純利益とは呼びません。
| 表示する名前 | 集計する範囲 | 読む際の注意 |
|---|---|---|
| 売上ベースの顧客価値 | その顧客からの売上 | 費用はまだ引いていない |
| 粗利ベースの顧客価値 | 売上から提供原価を引いた金額 | 獲得費や、含まれていない維持費は別に確認 |
| 24か月の累計実績 | 獲得から24か月までの実績 | その後の価値を含まない |
| 生涯の予測値 | 関係終了までの将来をモデルで推定 | 継続・支出・割引などの前提に依存 |
顧客が取引を続けている途中の24か月分を集計しても、生涯全体を測れたわけではありません。Fader・Hardieの検討も、有限期間の評価と残りの価値を区別しています。
物販のLTVを売上と粗利で計算する
同じ購入履歴でも、売上を合計するか粗利を合計するかで顧客価値は変わります。
説明用の架空例として、1人の顧客が1回5,000円の商品を年4回、3年間購入し、その後の購入はないとします。全ての購入の粗利率は40%で、返品・値引きはありません。
| 計算するもの | 計算式 | 結果 |
|---|---|---|
| 3年間の購入回数 | 4回/年×3年 | 12回 |
| 売上合計 | 5,000円/回×12回 | 60,000円 |
| 1回の粗利 | 5,000円×40% | 2,000円 |
| 粗利合計 | 2,000円/回×12回 | 24,000円 |
同じ顧客でも、売上は60,000円、粗利は24,000円です。60,000円まで獲得費を使ってよいとはいえません。粗利からも獲得費やその他の必要費用をまかなうためです。
月と年をそろえる
年4回という頻度には年数を掛けます。「年4回×36か月」を単位を直さず計算すると、回数を12倍にしてしまいます。月単位で表すなら、年4回÷12か月×36か月=12回です。
購入額や粗利率が顧客ごと・商品ごとに違う場合は、取引明細を顧客ごとに足し上げ、その後に同じ観測期間の顧客で平均します。別々の顧客群から取った平均単価・平均頻度・平均期間を掛けるだけでは、平均的な顧客価値になるとは限りません。
一般の物販は、しばらく購入していないだけでは関係終了を観測できません。非契約型のCLVを扱う著者ノートも、この点を契約の解約と区別しています。「6か月未購入」を社内の休眠定義にする場合も、将来二度と買わないという意味にはしません。
継続課金は月ごとに積み上げて確かめる
継続する確率を各月の粗利に掛けて足すと、有限期間の値と生涯の予測値の違いを確認できます。
説明用の架空モデルとして、月額10,000円、粗利率30%のサービスを考えます。全顧客が初月は必ず利用し、その月末以降、毎月同じ5%の確率で解約すると仮定します。再契約、増額、途中返金はなく、継続中の月粗利は3,000円で一定です。将来の金額の割引は行いません。
まず3か月分を計算する
このモデルでは、翌月へ残る確率は95%です。2か月目は0.95、3か月目は0.95×0.95=0.9025を月粗利へ掛けます。
| 月 | その月に利用する確率 | 1社当たりの期待粗利 | 累計 |
|---|---|---|---|
| 1か月目 | 1 | 3,000円 | 3,000円 |
| 2か月目 | 0.95 | 2,850円 | 5,850円 |
| 3か月目 | 0.9025 | 2,707.50円 | 8,557.50円 |
期待粗利はモデル上の平均です。実際の1社が2か月目に2,850円を支払うという意味ではありません。初めに獲得した顧客を分母にして、解約する可能性も含めて見ています。
24か月と無限期間で値が変わる
初月の粗利を出発点に、翌月へ更新する回数だけ0.95を掛けます。2か月目は1回、3か月目は2回です。このモデルで月をtとすると、tか月目の期待粗利は「3,000円×0.95の(t−1)乗」です。初月から24か月までを足すと、次の値になります。
24か月の粗利期待値=3,000×(1−0.95^24)÷0.05=約42,481円/社
この計算を期間の上限なく続けるモデルでは、粗利の生涯予測は「月粗利÷月次解約確率」です。
| 金額・期間 | 計算 | 結果 |
|---|---|---|
| 24か月までの粗利 | 上の有限期間の式 | 約42,481円 |
| 生涯の粗利予測・割引なし | 3,000÷0.05 | 60,000円 |
| 生涯の売上予測・割引なし | 10,000÷0.05 | 200,000円 |
このモデルでは期待継続月数は1÷0.05=20か月です。ただし、全員が20か月で解約する意味ではありません。
Fader・Hardieの2026年のノートは、解約率の逆数を使うには、全顧客に共通する一定の解約確率という条件が必要になることを説明しています。会社全体の解約率が毎月5%だからといって、個々の顧客がこのモデルに従うとは限りません。
実務では獲得月などが同じ顧客群、つまりコホートごとに、何か月後に何社残ったかを確認します。初月に解約が集中する場合や契約更新月だけ解約できる場合は、この単純式をそのまま当てはめません。
将来の1万円と今日の1万円を区別する
将来に得られる価値を現在の価値へ直す計算では、割引率と受け取る時点も必要です。CLV公式の原文の金額は費用控除後のネットキャッシュフローを扱い、会計上の粗利と自動的に一致するものではありません。
ここでの60,000円は、仕組みを理解するための割引なしの粗利予測です。実際の投資額を決めるときには、維持費の漏れ、入出金の時期、予測の不確かさも確認します。
ゼロ解約と観測期間不足をどう扱うか
解約がまだ起きていないときは、生涯価値を確定せず、観測できた期間と条件別の試算を示します。
0で割ることはできません。また、短期間に解約が0件だったという観測は、今後も解約確率が0だという証明ではありません。
先ほどの架空モデルの月粗利3,000円を使い、解約確率だけを変えると次のようになります。どれが自社の真の確率かを示す表ではありません。
| 仮定した月次解約確率 | 初月から24か月の粗利期待値 | 無限期間・割引なし |
|---|---|---|
| 5% | 約42,481円 | 60,000円 |
| 2% | 約57,633円 | 150,000円 |
| 0% | 72,000円 | 有限の金額に収束しない |
計算を通すためだけに解約率を0.1%へ置き換えたり、解約した顧客だけの平均利用月数を全員へ当てはめたりしません。まだ利用中の顧客には、その後の期間が残っています。
まず獲得後6か月、12か月など同じ長さの実績を比較します。新しい顧客群の3か月実績と古い顧客群の24か月実績を、そのまま優劣の比較に使わないようにします。将来を十分に予測できるかは、継続実績と推定方法を検証するまで分かりません。
入力表で単位と前提をそろえる
式へ入れる前に、顧客単位・期間・費用範囲を1枚にそろえると誤用を見つけやすくなります。
右欄へ自社の値を記入します。不明な項目は仮定と区別して残してください。
| 項目 | 継続課金の完成例 | 自社の記入欄 |
|---|---|---|
| 顧客と集団 | 新規有料契約の会社1社単位、同一獲得月 | __ |
| 1期間 | 1か月 | __ |
| 継続中の売上・粗利 | 月10,000円・3,000円 | __ |
| 粗利の費用範囲 | 提供原価控除後、獲得費等は未控除 | __ |
| 継続・解約の前提 | 初月利用、月末解約、共通一定5% | __ |
| 計算期間と割引 | 初月から24か月、割引なし | __ |
| 結果の種類 | 粗利の期待値42,480.66円/社 | __ |
| 実績か予測か | 仮定に基づく予測 | __ |
| 未反映事項 | 増額、再契約、その他費用、現金の時差 | __ |
数値が合っていても、読み方が間違っていないかを確認します。
| 誤った使い方 | 修正する見方 |
|---|---|
| 売上LTV20万円なので獲得費10万円でも問題ない | この例の粗利予測は6万円。費用控除前の売上で採算を判断しない |
| 年間売上を月次解約率で割る | 売上・粗利と解約率の期間をそろえる |
| 解約0件なのでLTVは無限と報告する | 観測期間を示し、有限期間実績と複数の仮定を分ける |
| 継続率が上がったのでCX施策の成果とする | 獲得顧客の違い、値引き、季節なども確認する |
LTVを改善の判断につなげる
LTVの数字を高く見せるのではなく、顧客行動と費用のどこが変わったかを確認します。
顧客体験の改善を検討するときは、使い始めのつまずき、再購入しにくい理由、追加購入に必要な情報などを調べます。そのうえで、施策と確かめたい変化を結び付けます。
| 確認した課題の例 | 試す施策の例 | 一緒に確認する値 |
|---|---|---|
| 利用開始直後に解約が多い | 初回設定の説明を改善 | 同じ経過月数の継続率、支援費 |
| 再購入時に注文方法が分かりにくい | 購入履歴から再注文できる導線を整備 | 再購入件数、返品、粗利 |
| 必要な上位機能が伝わっていない | 利用目的に合う説明を用意 | 増額後の粗利、解約、問い合わせ |
追加の支援で継続が増えても、支援費まで含めた価値が増えるかは別に確認します。具体的な観測項目は解約率の計算と改善で、獲得側の費用はCACの考え方で整理できます。
まとめ
LTVを比較できる数字にするには、売上と粗利、実績と予測、計算期間を明示することが必要です。
- ✓物販の例では売上60,000円に対し、粗利は24,000円でした。
- ✓同じ継続課金モデルでも、24か月の粗利と無限期間の粗利は異なります。
- ✓解約率の逆数式には共通一定確率などの条件があり、観測上のゼロ解約には使えません。
まず同じ期間を観測できる顧客群を一つ選び、売上と粗利を分けて集計してください。生涯の予測は、その実績と継続の前提を確認したうえで加えていきましょう。




