「20代女性向け」と決めたはずなのに、施策の反応がいまひとつ。そんなとき、セグメントの切り方だけでなく、その先の体験設計に原因があるケースも少なくありません。STP分析は、誰に何を届けるかを定めるための、マーケティングの基本フレームワークです。

本記事では、STP分析の基本を整理します。そのうえで、セグメントを定めた後に必要になる、CX(顧客体験)の視点を解説します。


STP分析とは

STP分析とは、市場を細分化し、狙う顧客層を定め、自社の立ち位置を明確にするための3段階のフレームワークです。

Segmentation(細分化)・Targeting(ターゲティング)・Positioning(立ち位置)の略です。経営学者フィリップ・コトラーのマーケティング論で体系的に整理され、広く普及しました。「誰に、どんな価値を届けるか」という戦略の根幹を、順を追って明確にしていく手法です。市場を「なんとなく」ではなく、明確な基準で捉え直すことから戦略が始まる、という考え方が土台にあります。

STP分析と3C分析の違い

3C分析は、Customer・Competitor・Companyという3つの視点で事業環境そのものを俯瞰する分析です。これに対しSTP分析は、3C分析で捉えた市場の中から実際に狙う顧客層と、自社の立ち位置を絞り込む工程です。3C分析が「事業環境の地図を描く」作業だとすれば、STP分析は「旗を立てる場所を決める」作業だといえます。


STP分析の3ステップ

STP分析は、S・T・Pという3つのステップを順に進めます。

Segmentation(市場の細分化)では、市場全体を、共通する特徴を持つグループに分けます。年齢・性別といった人口動態的な変数があります。居住地や商圏といった地理的変数もあります。価値観やライフスタイルといった心理的変数もあります。購買頻度や利用シーンといった行動変数もあります。これら複数の切り口を組み合わせて分類します。たとえば、「20代・都市部在住」という属性だけを見ても、輪郭ははっきりしません。「効率を重視する」という価値観を組み合わせます。「平日夜に検討する」という行動パターンまで組み合わせると、より解像度の高いグループが見えてきます。

Targeting(狙う市場の決定)では、細分化した市場の中から、自社が実際に狙う層を絞り込みます。すべてのセグメントに同じ商品・同じメッセージで対応する方法があります。特定のセグメントだけに経営資源を集中させる方法もあります。どの層を狙うかによって、その後の商品設計から販促手法まで、すべてが変わってきます。限られた予算をどのセグメントに配分するかを決める工程でもあり、ここでの選択が事業全体の方向性を左右します。

Positioning(立ち位置の明確化)では、自社が競合に対してどんな独自の立ち位置を取るかを定めます。価格の安さで選ばれたいのか、品質の高さで選ばれたいのか、あるいは特別な体験で選ばれたいのか。この立ち位置が曖昧なままだと、価格競争に巻き込まれやすくなります。ポジショニングマップと呼ばれる図があります。縦軸・横軸で競合と自社の位置関係を書き出してみると、まだ誰も押さえていない立ち位置が見えてくることがあります。たとえば、縦軸に「価格の高さ」、横軸に「専門性の高さ」を取り、競合各社をマップ上に配置してみます。空白のマス目が見つかれば、それが自社にとっての新しい立ち位置の候補になります。

具体例で見るSTP分析:コーヒーショップのケースを続ける

3C分析の記事で扱った、専門コーヒーショップの開業例を続けます。3C分析で「長時間集中して作業したい人のニーズが満たされていない」という機会が見えていました。ここからSTP分析で、具体的に誰を狙うかを絞り込みます。

まずSegmentationです。周辺エリアのコーヒー利用者を、行動パターンで分けてみます。3つの層が見えてきたとします。出勤前に立ち寄る「時短派」、長時間の作業目的で利用する「集中派」、友人との会話を楽しむ「歓談派」です。人口動態だけで区切っていたら、この違いは見えてきません。

次にTargetingです。3つの層すべてに向けた店づくりをすると、内装も価格帯もメニューも中途半端になりかねません。ここでは「集中派」に経営資源を集中させると決めます。時短派は近隣の大手チェーンで十分満たされており、真正面から取りに行っても消耗戦になるだけだからです。

最後にPositioningです。「集中派」に対して、自社はどんな立ち位置を取るのか。「安さ」でも「速さ」でもなく、「長時間いても気兼ねしない、質の高い作業環境」という立ち位置を掲げます。電源席の多さ、Wi-Fiの安定性、長時間滞在を歓迎する接客方針が、この立ち位置を支える具体策になります。

セグメントを絞り込んだことで、店の設計は驚くほど具体的になります。「良いコーヒーを出す店」という曖昧な方針では、内装も接客も価格設定も決めようがありません。「集中派に選ばれる店」という狙いが定まって初めて、一貫した基準で判断できるようになります。席の配置やコンセントの数、BGMの音量まで、一貫した基準です。


なぜセグメントを切るだけでは不十分なのか

STP分析でセグメントとポジショニングを定めただけでは、実際の顧客体験にはつながりません。

たとえば、「特別な体験で選ばれたい」というポジショニングを掲げたとします。しかし、実際の接客やアフターサポートが他社と大差なければ、顧客はそのポジショニングを実感できません。ポジショニングとは、企業が顧客に対して掲げる「約束」のようなものです。この約束が、実際のタッチポイントで裏切られてしまうと、かえって信頼を損ないます。高級路線を掲げながら、問い合わせ対応が事務的で温かみに欠ければどうなるでしょうか。顧客は「言っていることと違う」と感じます。難易度が高いのは、言葉を練り込むことよりも、その言葉通りの体験を現場で再現することです。

セグメントの切り方自体にも、落とし穴があります。年齢や性別といった人口動態的な変数だけでセグメントを切るとします。同じ「30代女性」というセグメントの中にも、多様な人たちが混在してしまいます。価値観や購買行動が大きく異なる人たちが、一つの箱にまとめられてしまうということです。セグメントの粒度が粗いままターゲティングを進めるとします。狙いを定めたつもりでも、実際には誰にも刺さらないメッセージになりかねません。「30代女性向け」という括りで作ったメッセージが、実際には誰の心にも強く響かない、という状態です。


CX理論との接続

この構造は、CX理論における「ペルソナ設計」という考え方にも接続します。

ペルソナ設計は、STP分析で定めたセグメント・ターゲットを、さらに一歩踏み込む作業です。具体的な一人の人物像にまで解像度を上げます。「30代・共働き・都市部在住」という属性の並びだけでは限界があります。その人が何に悩み、どんな瞬間に商品を思い出すのかまでは見えてきません。ペルソナとして人物像を描くことで、STP分析の結果を、商品開発や接客の判断基準として使えるレベルまで具体化できます。

カスタマージャーニーも同様の役割を果たします。ポジショニングで掲げた「約束」が、認知から購入、利用継続までの各接点で、一貫して届いているかを確認する手段になります。STP分析が「戦略の設計図」だとすれば、カスタマージャーニーは「現場でどう機能しているか」を検証する手段です。設計図と現場の両方を行き来して初めて、STP分析は机上の空論で終わらずに済みます。

この視点は、離反率と顧客獲得コスト(CAC)の関係にも表れます。先のコーヒーショップの例で考えます。「質の高い作業環境」という強い価値を訴求したのに、実際の接客が事務的だったとします。訴求と体験のギャップが大きいほど、早期離反は起きやすくなります。早期離反が採算に与える影響は、CACだけで測れるものではありません。契約継続期間や、顧客が生涯にわたってもたらす利益の総額(顧客生涯価値・LTV)まで含めて判断する必要があります。「集中派」という狭いターゲットだからこそ、深く刺さる体験を設計しやすいという利点もあります。広く浅いメッセージでは生まれない納得感を、絞り込んだ分だけ作り込めるのです。STP分析の精度を上げることと、実際の体験の一貫性を保つこと。この2つは表裏一体で、どちらか一方だけでは成果につながりません。


注意点

STP分析は強力な思考の型である一方、扱い方を誤ると顧客との距離を広げてしまうリスクもあります。

セグメントを細かく切りすぎると、それぞれの市場規模が小さくなりすぎて、事業として成立しなくなる場合があります。逆に大まかすぎるセグメントでは、狙いが定まりません。適切な粒度を見極めることが、STP分析を機能させる前提になります。目安になる基準があります。そのセグメントに向けた専用の商品やメッセージを用意する価値があるかどうかで判断するとよいと考えられます。

また、一度定めたポジショニングに固執しすぎることにも注意が必要です。市場や顧客のニーズは変化します。数年前に定めたポジショニングが、今の顧客の期待とずれていないか、定期的に見直す姿勢が求められます。特に、競合が新しいポジショニングで参入してきた場合は要注意です。自社が長年守ってきた立ち位置が、いつの間にか陳腐化していることもあります。ポジショニングは一度決めたら終わりではなく、市場の変化に応じて調整し続けるものだと捉えておく必要があります。


まとめ

STP分析は、市場を分け、狙いを定め、立ち位置を明確にするフレームワークです。ペルソナ設計やカスタマージャーニーと組み合わせることで、戦略を実際の顧客体験にまで落とし込めます。

  • ✓STP分析とは:セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニングの3段階で戦略の根幹を定める手法です
  • ✓3ステップ:市場を分け、狙う層を選び、競合に対する立ち位置を明確にします
  • ✓CX理論との接続:ペルソナ設計・カスタマージャーニーが、戦略を現場の体験に落とし込みます
  • ✓注意点:セグメントの粒度と、ポジショニングの定期的な見直しが必要です
  • ✓運用のコツ:ポジショニングで掲げた「約束」が実際の接点で裏切られていないか確認します

自社のポジショニングが、実際の顧客との接点でどう体験されているか、一度確認してみてください。掲げた約束と、届いている体験の間にズレがないかを見直すことが、STP分析を機能させる次の一歩になります。営業資料やWebサイトの言葉だけでなく、実際に問い合わせた顧客が受け取る一次対応の質まで確認する価値があります。同じ物差しで見直してみてください。