最初は興味のなかった広告や商品が、何度も目にするうちに、なぜか気になり始めた経験はないでしょうか。この現象の背景には、「ザイアンス効果」と呼ばれる心理があります。
本記事では、ザイアンス効果の仕組みと限界を整理します。そのうえで、この心理がCX(顧客体験)における接触頻度の設計にどう応用できるのかを解説します。
ザイアンス効果とは
ザイアンス効果とは、最初は興味がなかった対象でも、繰り返し接するうちに好感度が上がっていく心理傾向のことです。「単純接触効果」とも呼ばれます。
この概念は、心理学者ロバート・ザイアンスが1968年に提唱しました。人物・図形・単語・音楽・ブランドロゴなど、対象を問わず広く確認されている現象です。恋愛関係における「毎日顔を合わせるうちに好きになった」という感覚にも、同じ心理が働いていると考えられています。営業担当者が足繁く通うことで好意的な印象を積み重ねていく過程も、その一例です。
未知の文字・写真の実験が示した単純接触効果
ザイアンスの実験では、参加者に見たことのない文字や図形、意味を持たない単語を繰り返し見せました。人物の卒業写真を繰り返し見せる条件もありました。同じ対象を見た回数が多いほど、参加者はその対象に対して高い好感度を示しました。対象自体には何の変化もありません。ただ「見た回数」だけが、好意的な評価につながったということです。
大学の講義を使った、より実生活に近い実験もあります。4人の女性の実験協力者がいます。1人はまったく講義に出席せず、残り3人がそれぞれ5回・10回・15回出席しました。出席した女性たちは、学生と会話することなく、講義が始まる前に教室に入り、学生から見える位置に座っただけです。学期末に、学生たちがそれぞれの女性の写真を見て親近感や魅力を評価しました。出席回数の多かった女性ほど、高く評価される傾向が見られました。一言も会話をしていなくても、単に「見かける回数」が多いだけで、人物への印象は変わり得るということです。
ザイアンス効果には限界がある
ザイアンス効果は無条件に働くわけではありません。接触回数と好意度の関係には、限界があります。
1968年から1987年までの実験を対象にしたメタ分析があります。それによれば、接触回数が増えるほど効果の大きさは強まります。しかし、その強まり方は一定回数を超えると鈍化します。さらに接触を重ねると、効果そのものが弱まっていく傾向も報告されています。研究者はこれを「逆U字型」のパターンと呼んでいます。ただし、これは「一定回数を超えると必ず好意が嫌悪に転じる」ということまで確認された結果ではありません。あくまで効果量が弱まる、という報告です。
なぜ効果が頭打ちになるのでしょうか。同じ対象に接し続けると、次第に「見慣れた」という感覚が「見飽きた」という感覚に変わっていくためだと考えられています。CMを例に考えてみます。放送開始直後は好意的に受け止められていたCMがあるとします。放送回数を重ねるうちに視聴者から敬遠されるようになる現象を目にしたことがあるかもしれません。これも、この頭打ちのパターンに近いと考えられます。
もう一つの限界は、最初の印象です。初対面の印象が悪い相手には、単純接触効果はそのまま当てはまりません。接する回数が増えるほど、苦手意識や嫌悪感がむしろ強まってしまう可能性があります。つまり、ザイアンス効果は「接触回数を増やせば増やすほど良い」という単純な法則ではありません。最初の印象が一定水準を満たしていること、そして接触回数が適切な範囲に収まっていること。この2つの条件がそろって初めて機能すると考えられます。
CXにおける接触頻度の設計
この心理は、CX(顧客体験)における接触頻度の設計にも応用できます。
たとえば、資料請求だけで終わった見込み客を考えてみます。この見込み客に対して、メールマガジンで定期的に有益な情報を届け続けるという施策があります。ここで働いているのは、単に「思い出してもらう」という記憶の効果だけではありません。反復して接触すること自体が評価に働きかけるという単純接触効果も、好意形成の一因になっている可能性があります。ただし、これはあくまで一因です。情報の有用性や専門性による信頼形成は、単純接触効果とは別の要因であり、両者を混同しないよう注意が必要です。接触の形はさまざまです。SNSでの定期的な情報発信、店舗の前を通るたびに見える看板、Webサイトを訪れるたびに表示される同じロゴなどです。共通しているのは、いずれも「1回きり」ではなく「繰り返し」を前提にした設計だという点です。
タッチポイントという観点で見ると、顧客との接点を単発で終わらせず、良質な内容で繰り返し設計することの意味が見えてきます。1回だけの完璧な接客を目指すよりも、良い設計があります。多少地味であっても一定の質を保った接触を重ねる設計です。この方が、結果として好意度を積み上げやすい場合があります。たとえば、初回商談で完璧な提案書を作り込むことに労力を注ぐ方法があります。一方で、商談後に有益な業界情報を数回に分けて送り続ける方法もあります。長期的な信頼構築には、後者の方が効きやすい場合があるという考え方です。ただし、前述の限界を踏まえると、接触の質が低いまま回数だけを増やす設計は逆効果になりかねません。有益さや心地よさを伴わない接触の繰り返しは、好意ではなく「またこれか」という煩わしさにつながる可能性があります。件名を変えただけの同じ内容のメールを毎週送り続けるような施策は、この典型例だといえます。
CX理論との接続
この構造は、CX理論における「オムニチャネル」という考え方にも接続します。
オムニチャネルで解説した通り、顧客は店舗・Webサイト・アプリなど複数のチャネルを横断して企業と接点を持ちます。この複数チャネルにまたがる接触こそが、単純接触効果を積み上げる土台になります。1つのチャネルだけに接触を集中させるより、複数のチャネルに分散する方法があります。この方が、より自然な形で好感度を積み上げやすいと考えられます。店舗で商品を見かけ、後日Webで検索し、アプリで再入荷の通知を受け取る。こうした一連の流れは、顧客にとって「追いかけられている」印象になりにくいものです。むしろ「よく見かけるブランド」という印象に近づきやすくなります。
顧客が特定のブランドを「なんとなく信頼できる」と感じる背景には、こうした接触の積み重ねが影響している可能性があります。この「なんとなく」の感覚は、単発の広告やキャンペーンだけでは生まれにくいものです。接触頻度の設計は、CX全体を通じて顧客との関係を長期的に育てるという視点に立って初めて、効果を発揮する施策だといえます。
この視点は、顧客生涯価値(LTV)にもつながります。1回きりの購入で終わる顧客と、繰り返し接点を持ちながら関係を続ける顧客とでは、長期的な取引額が変わってきます。接触頻度の設計を、単発の販促活動として位置づけるか、顧客との関係を育てる投資として位置づけるか。これが、成果の分かれ目になると考えられます。
自社のマーケティング施策を振り返ってみてください。「新規獲得のための広告」と「既存顧客への接触」が、別々の予算・別々の担当で動いていることはないでしょうか。単純接触効果の観点に立つと、この2つは本来つながっているはずの取り組みです。新規獲得の広告で最初の接点を作り、その後の複数チャネルでの接触によって好意度を積み上げ、最終的にLTVへとつなげる。接触頻度の設計を、この一連の流れとして捉え直すことが、次の一歩になります。
注意点
接触頻度の設計は有効な手段である一方、扱い方を誤ると逆効果になるリスクもあります。
前述の通り、単純接触効果には限界があります。同じ広告・同じメールを短期間に大量に送りつければ、好意度が上がるどころか、迷惑や不快感の原因になります。特にデジタル広告のリターゲティングは、接触頻度を細かく制御しやすい施策です。その反面、頻度が高すぎると「追いかけられている」という不快感につながりやすいという性質も持っています。一度見た商品の広告が、別のサイトを開くたびに何度も表示され続けた経験がある人は少なくないはずです。こうした事態を避けるには、接触回数の上限をあらかじめ設定するなど、頻度そのものを管理する仕組みが必要になります。
また、最初の接点で悪い印象を与えてしまった場合、その後どれだけ接触を重ねても、好感度が上がるとは限りません。むしろ、悪い印象を繰り返し思い出させる結果になりかねません。初回の問い合わせ対応が雑だった企業から、その後何度広告を目にしても、印象が好転しにくいのはこのためです。接触頻度を設計する前提として、最初の接点の質を一定水準に保つことが欠かせないという点は、見落とされがちな注意点です。
まとめ
ザイアンス効果(単純接触効果)は、繰り返し接するうちに好感度が上がる心理です。CXにおける接触頻度の設計に応用できます。ただし接触回数には最適な範囲があり、最初の印象が悪い場合は逆効果になる点に注意が必要です。
- ✓ザイアンス効果とは:繰り返し接するうちに対象への好感度が上がる心理傾向です
- ✓限界:接触回数の効果は一定を超えると頭打ちになり、効果量が弱まる傾向があります
- ✓CXへの応用:複数のタッチポイント・チャネルを通じた質の高い接触の積み重ねが、顧客の好意度を育てます
- ✓CX理論との接続:オムニチャネル設計は、単純接触効果を自然な形で積み上げる土台になります
- ✓注意点:最初の印象が悪い場合や、過剰な頻度での接触は逆効果になるリスクがあります
自社が顧客との接点を、単発のキャンペーンで終わらせていないか、一度見直してみてください。良質な接触を、適切な頻度で積み重ねる設計こそが、顧客との関係を長期的に育てる土台になります。回数を増やすことだけが目的化しないよう、1回ごとの接触の質を保つ視点も、あわせて忘れないようにしたいところです。


