VOC(Voice of Customer)は顧客の声を意味し、アンケート、問い合わせ、インタビュー、レビューなどに表れる意見や評価を指します。活用するときは、複数の声から共通する困りごとを見つけ、深刻さと実行条件を確かめて改善を選びます。

進め方は、収集目的を決める、原文を整理・分類する、同じ対象と単位で比較する、改善候補を選ぶ、変更後を確かめる、の順です。この記事では予約サービスの8人分の架空回答を使い、原文から改善案を選ぶまでを一続きで示します。


収集目的と、声を集める対象を決める

何を判断したいかを決めると、必要な経路と見落としやすい声を選び分けられます。

「顧客満足度を上げる」から一歩進め、「予約変更のどこで困るかを調べ、操作・完了表示・案内のどれを直すか決める」と書きます。QualtricsのVOC解説も、複数の経路で声を集め、分析した情報を部門の行動につなぐ考え方を扱っています。

確かめたいこと収集経路の候補見落としやすい人・情報
どこで困ったか問い合わせ、利用後の短い質問困っても連絡せずやめた人
なぜ困ったか、どう対処したか原文に基づく任意のインタビュー、操作の観察回答しない人、理由を言いにくい人
評価された体験も残したい満足度調査の自由記述、レビュー投稿しない人、問題なく使えた人

問い合わせは申出のあった案件、調査は回答した人、レビューは投稿者の情報です。経路・期間・対象を残し、異なる経路を足しただけの件数を「顧客全体の不満率」としないでください。質問を作る場合は、顧客満足度調査の設計も参考になります。

この例でそろえる対象と数え方

ここからのサービス、原文、人数、記録、調査結果、改善案はすべて説明用の架空例です。2026年9月1〜28日に予約変更画面を開いた利用者40人へ、10月1〜7日に同じ任意の質問を送り、8人から一人1件の自由記述を得たとします。質問は「直近の予約変更で、困ったことや役立ったことはありましたか。どの場面で、どうしたかを教えてください」です。

分析する単位は「直近の予約変更について回答した人」です。同じ人が補足を送った場合は同じIDへ追記し、人数を増やしません。回答しなかった32人の体験や、画面を開かなかった人の事情は、この8人からは分かりません。


8人の原文を場面と困りごとで分類する

短い要約を付けても原文を残し、どの場面で何が起きたかを同じ基準で読みます。

最初は全回答を読み、今回の判断に関わる「場面」「困りごと・評価」「影響」を付けます。「メール」「画面」といった単語だけで分けると、異なる手段で同じ不安が起きていることを見落とすためです。

ID架空の原文場面分類原文から分かる影響
V01変更後のメールが来ず、予約一覧で新しい時刻を見つけるまで確定したか分かりませんでした。変更結果の確認変更結果が不明一覧で追加確認
V02完了画面に変更後の日時がなく、確認のため電話しました。変更結果の確認変更結果が不明電話で追加確認
V03変更ボタンを押すと一覧に戻り、反映されたか見分けられず、もう一度操作しました。変更結果の確認変更結果が不明操作を繰り返した
V04メールが届かず不安でした。予約一覧で変更を確認できましたが、当日の持ち物は見つからず、別のページも探しました。変更結果の確認/来店準備変更結果が不明/来店案内が探しにくい一覧の確認と案内探索
V05スマホで日付を選ぶと画面が止まり、変更を諦めました。日付を選ぶ操作操作を完了できない変更を中断した
V06持ち物を調べるために、予約ページとFAQを行き来しました。来店準備来店案内が探しにくい複数ページで探索
V07日曜に確認したかったので、電話窓口も日曜に開いてほしいです。問い合わせ電話窓口の拡張要望希望する連絡手段がない
V08変更後の日時が予約一覧ですぐ分かり、安心できました。変更結果の確認肯定的な評価一覧で結果を把握

「変更結果が不明」は、反映されたか本人が分からなかったという申告に付けます。実際に変更処理が失敗したという分類ではありません。V08は同じ予約一覧を評価しているため、問題のある声だけを残すと見えなくなる手掛かりです。

V04には二つの困りごとがあるので、二分類を付けています。分類の定義と対象IDを残し、別の担当者が原文から同じ判断をできるか確認します。迷う記述は無理に既存分類へ押し込まず、判断理由や未分類の状態を残します。


同じ単位で共通課題と深刻さを読む

分類別の人数に原文の影響を重ね、頻出する課題と少数でも重い問題を分けて捉えます。

分母は自由記述を寄せた8人にそろえます。一人が同じ問題を繰り返し書いても、その分類では一人です。以下は回答した8人の内訳で、40人全体の発生率ではありません。

分類対象ID該当人数/回答者8人読み取れる課題追加で確かめること
変更結果が不明V01〜V044/8人(50%)メール・画面・一覧をまたいで結果の確認に手間がある変更の反映、完了画面、通知の送信・到達
操作を完了できないV051/8人(12.5%)一人が変更を中断したと述べている端末・操作・エラーの再現と代替手段
来店案内が探しにくいV04・V062/8人(25%)持ち物の情報を探す作業が生じている案内の場所と探す経路
電話窓口の拡張要望V071/8人(12.5%)日曜に電話で確認したいという要望がある用件、急ぎ度、既存の代替手段
肯定的な評価V081/8人(12.5%)予約一覧で変更後の日時を把握できた役立った表示を変更案にも残せるか

回答者は8人、回答は8件ですが、分類は延べ4+1+2+1+1=9件です。V04を二分類で数えるため、分類ごとの該当人数を8人で割った割合の合計は112.5%になります。声を受けた件数、回答者数、分類別人数を区別して報告します。

この例では結果確認の困りごとが最も多く見えます。一方、V05は一人でも操作を完了できていないため、個別の支援と再現確認を先に進める判断ができます。安全への影響や利用不能の程度は、件数順とは別に確認してください。

原文から分かるのは本人が述べた体験です。「メール未着」は送信障害とは限らず、登録先や受信設定なども確認が必要です。行動ログも補助に使えますが、「一覧を開いた」だけで不安や満足まで確定しません。


根拠を確かめ、改善候補を選ぶ

同じ分類でも原因を確かめ、何を変えると困りごとに届くかを判断します。

架空例の続きとして、担当者が記録と画面を確認したところ、V01〜V04の予約変更は反映済みで、完了画面には「手続きが完了しました」とだけ表示されていたとします。通知の未着理由はまだ未確認です。また、V05の操作は申告された端末で画面停止を再現できたものとします。これらも実在サービスの調査結果ではありません。

この確認を受け、利用不能の調査・修正を優先しながら、複数の声に共通する結果確認の改善案を選びます。全機能を一度に変えず、次のように根拠と判断を対応させます。

候補根拠と狙いこの例での判断実行前に確かめる条件
日付選択で止まる問題を調べ、修正するV05の中断申告と操作の再現優先して調査。本人には代替の変更方法を案内影響する端末・範囲、原因、代替手段の実行可否
完了画面に変更後の日時と一覧への導線を示すV01〜V04は結果が不明。V08は一覧の日時表示を評価共通改善として試作する候補に選ぶ表示が実際の予約状態と一致すること、未完了を完了表示にしないこと
持ち物案内を結果確認画面から開けるようにするV04・V06が案内を探索既存案内への導線を確認し、結果確認の試作と合わせて検討既存の案内が正しく、変更内容と混同しないこと
日曜の電話窓口を開くV07の要望。ただし用件や必要な業務量は未確認保留し、用件と代替手段を確認対応人数・時間・費用、継続して運営できる体制

選んだ完了画面の案は、「変更後の予約:10月22日18時」「予約一覧で確認する」「当日の持ち物を見る」を表示する設計例です。実際の変更が反映された場合だけ日時を示します。メールを待たずに確認できる経路を用意しつつ、通知の未着調査も続けます。画面を変えるだけで未着の原因が解消したとは扱いません。

要望をすべて仕様にする必要はありません。声の多さ、影響、代替手段、工数を合わせて採用・保留・不採用を決め、別の担当者にも理由が分かるように残します。HubSpotのVOC活用記事も、知見を顧客対応部門に閉じず、製品や営業などの関係部門へ渡す視点を示しています。


個別回答と再発防止を分けて動かす

目の前の顧客を支援する仕事と、同じ問題を減らす仕事は、完了条件を分けます。

V01へ予約の反映を伝えれば、本人の不安は解消するかもしれません。しかし、それだけで次の利用者にも分かる画面へ変わったわけではありません。「個別回答済み」と「共通の改善を確認済み」を別々に追います。

仕事担当と次の行動の例完了を確かめる点
V01への個別回答サポート担当が変更反映済みと通知の確認状況を連絡必要な予約情報が本人へ届いたか
V01〜V04に共通する結果確認の改善画面担当が日時表示を試作し、開発・サポートと確認実際の予約状態と表示が一致し、利用者が結果を理解できるか
V05の操作中断への対応開発担当が再現条件を調査し、窓口担当が本人への連絡を継続対象条件で操作を完了でき、本人の手続きも確認できたか

XM Instituteの運用ガイドは、誰に応答するか、担当、対応量、引継ぎなどを設計項目にしています。担当欄を「関係部署」だけで終えず、判断する人、作業する人、顧客へ連絡する人を決めます。

回答期限は対応容量と合わせます。説明用の試算で週20件へ各15分必要なら300分、確保できる240分との差は60分です。担当の追加や分担、回答日程を調整してから約束します。安全に関わる案件や現在利用できない案件は、通常の改善会議を待たせない運用を設けます。


保留・不採用にも理由と対応を残す

未確定の原因や提供予定を約束せず、今できることと次に連絡する時点を伝えます。

V01へ調査中の状況を伝える文面例です。実際に確認した内容と守れる時刻へ置き換えます。

予約変更は反映されていることを確認しました。確認メールが届かなかった理由は現在調べています。次の確認結果は10月9日15時までにお知らせします。調査が続く場合も、その時点の状況をご連絡します。

V07の日曜電話窓口は、用件や必要な体制を確認するまで保留としています。現在は日曜に電話対応せず、フォームを常時受け付け、月曜9時から回答する運用だと仮定すれば、次のように伝えられます。

日曜の電話対応のご要望を受け取りました。現時点では開始をお約束できませんが、日曜に確認したかった内容を差し支えない範囲でお聞かせください。お問い合わせフォームは日曜も受け付け、回答は月曜9時以降となります。

窓口や案内先が実在し、伝えた条件で使えることを確認してください。保留は再検討する条件と日、不採用は理由を記録します。匿名の声は個別返信できないため、公開案内や全体の改善へ反映する方法を検討します。


改善後を確かめ、次の判断を記録する

選んだ変更に合う確認方法を決め、同じ条件で声と行動を見直します。

完了画面の案について、以下のように実施前の計画を残します。操作できたかと、利用者が理解できたかの両方を確認します。

確認する段階この例で確かめること次の判断
公開前の処理確認予約変更の成功・失敗・通信中断で、日時と状態表示が記録に一致するか不一致があれば修正し、再確認する
利用者による試作の操作確認変更後の日時を答えられるか、一覧や持ち物案内を見つけられるか。参加人数・正答人数・迷った場面を残す見つからない箇所を修正する。少数の参加者の結果を全顧客へ一般化しない
運用後の再調査次の28日間に変更画面を開いた人へ、同じ質問・期間・分類で確認。招待人数、回答者数、分類別人数を残す同種の困りごとと新たな問題を確認し、継続・追加修正を選ぶ
個別対応と残る問題V01の通知原因、V05の操作中断、保留中のV07の条件が確認できたか画面改修の完了だけで別案件を閉じず、未確認の仕事を続ける

次の調査で「変更結果が不明」という声が減っても、回答した人や利用者数が違えば、画面変更の効果とは断定できません。問い合わせの件数も、利用減や受付の見つけにくさで減ることがあります。対象・分母・観測期間・他の変更を残し、原文と実際の操作を合わせて判断します。

原文から改善判断までを残す記入表

担当や期限は、分析で選んだ仕事を進めるために記入します。原文を多数の表へ複製せず、管理するIDから参照できるようにします。

項目この例の記入内容自社の記入欄
目的・対象・期間予約変更の改善箇所を決める。9/1〜28の画面利用者40人へ10/1〜7に任意調査[決めたいこと/対象/期間/経路]
原文と分類8回答を保存。V01〜V04は変更結果が不明。V04は来店案内にも分類[原文ID/場面/分類の定義]
集計と分かる範囲結果不明は4/8人。8人・8回答、延べ9分類。非回答32人は未確認[単位/分母/重複分類/未確認]
影響と追加確認V05の利用中断を優先。反映済み予約と完了表示を確認。通知原因は未確認[影響/確認済み/原因の仮説]
選んだ改善と理由中断の調査・修正を優先し、共通改善として日時表示を試作。日曜電話は保留[候補/採用・保留・不採用/理由]
担当・期限・個別回答画面担当が10/15までに試作を確認。窓口担当がV01へ10/9に状況連絡[担当/次の行動/期限/回答]
結果確認と次の判断処理一致と操作理解を確認し、次の28日間を同条件で再調査。結果は未確認[確認方法/実測結果/限界/次の判断]

満足度や継続も追う場合は、改善対象とのつながりを確かめてから追加します。調査対象、尺度、期間、利用状況をそろえ、同じ時期に上がっただけでVOC施策の成果としないようにします。長期の行動を確認する際は、顧客維持率の考え方が補助になります。


まとめ

VOCは、複数の声を同じ基準で読み、確認できた困りごとから改善を選び、変更後を確かめるために使います。

  • ✓収集目的と対象を決め、原文を場面・困りごと・影響で分類します。
  • ✓回答者数と分類別人数を分け、非回答者や別経路の顧客へ結果を広げすぎません。
  • ✓頻度だけでなく深刻さと実行条件を見て、改善候補の選択理由を残します。
  • ✓個別回答と再発防止を分け、同じ条件の声・行動で次の判断をします。

まず一つの判断したい体験を選び、期間と対象をそろえた複数の原文を読み比べてください。共通する困りごとと、少数でも先に確認すべき問題を書き出すところから始めます。