テレビ通販という業態は、画面越しに一方的に情報を伝えるだけになりがちです。ジャパネットたかたは、この一方通行になりやすい構造の中で、顧客に「伝わる」体験をどう作るかにこだわってきた企業です。

本記事では、その考え方を支える具体的な取り組みを紹介します。そのうえで、この事例をCX理論からどう読み解けるかを解説します。


ジャパネットたかたのCX戦略の全体像

ジャパネットたかたのCX戦略は、創業者・高田明氏の顧客中心の考え方を起点にしています。

高田氏は、番組制作を外部に委託せず、自社スタジオと自社スタッフで内製化する体制を築きました。生活者の視点に立った情報提供にこだわるためです。

この姿勢は、番組制作だけにとどまりません。金利や手数料を会社側が負担する仕組みなど、顧客の利便性を優先する施策にも表れています。


「伝える」と「伝わる」を分けるコミュニケーション哲学

高田氏は、情報を「伝えた」ことと、相手に「伝わった」ことは別物だと考えています。

どれだけコストをかけて発信しても、相手が行動を起こさなければ「伝えた」だけで終わってしまいます。高田氏にとって「伝わった」瞬間とは、電話が鳴り、実際に注文が入ることでした。

この考え方を実現するために、高田氏は世阿弥(室町時代に能楽を大成した人物)の教えを参考にしながら、話の構成や間の取り方、繰り返し、表情や身振りといった非言語の要素まで工夫してきたといいます。相手の存在を意識しながら伝えることを重視してきました。


コールセンターへの投資

ジャパネットは、コールセンター応対の質を高めるための独自の取り組みを続けています。

①ジャパネットの電話応対コンクール

ジャパネットグループは、コールセンターの応対品質を競う電話応対コンクールを開催しています。2019年に始まり、2023年からはグループ全体に対象を広げました。2025年の大会には約1,900名がエントリーし、最終審査に進んだのは10名でした。

②CX(顧客体験)を高める評価基準

このコンクールの評価基準は、「お客様の期待を超える応対で、『買いたい』『使いたい』をさらなるワクワクにつなげているか」という一点に集約されています。話し方の正確さや台本通りの受け答えができているかではなく、電話の向こうにいる顧客を本当に理解しようとする姿勢そのものが問われる基準です。


顧客の声を商品開発に反映する仕組み

ジャパネットは2026年、顧客の声を商品企画に活かす新しい取り組みを始めました。

2026年7月、ジャパネットたかたは初めてのプライベートブランドを立ち上げました。名称は「J PRIDE LIFETECH」です。第1弾として、高圧ハンディウォッシャーを発売しています。

このブランドの特徴は、顧客の声を商品企画そのものに反映する点です。第1弾の「どこでも使える高圧ハンディウォッシャー」は、バッテリー充電式で水道・コンセントの近くでなくても使え、市販のペットボトルを取り付けて給水することもできる仕様です。屋外の好きな場所で手軽に使いたいという要望を踏まえた仕様だと考えられます。販売するだけでなく、企画段階から顧客視点を取り込む姿勢が表れています。


ジャパネットの事例から学ぶCX理論との接続

ジャパネットの取り組みは、従業員体験(EX)への投資が顧客体験(CX)を引き上げるという構造の実例として読み解けます。

EX(従業員体験)とCXの関係で解説した通り、Service-Profit Chainという理論があります。従業員の満足度が、サービスの質を通じて顧客満足につながるという考え方です。

電話応対コンクールは、この理論と重ねて読み解ける取り組みです。競技を通じてオペレーターのモチベーションを高め、応対品質の底上げにつなげる狙いがあると考えられます。従業員への投資が、顧客対応の質という形で還元される可能性を示す一例です。

企業の視点では、この投資は財務的な意味も持ちます。応対品質が高まれば、クレーム対応にかかるコストが減り、解約率(チャーン率)の改善につながります。満足した顧客がリピート購入すれば、1顧客あたりの生涯価値(LTV)も高まります。従業員教育への投資は、短期的なコストではなく、既存顧客の維持を通じた将来収益への投資だと捉えられます。


まとめ

ジャパネットたかたのCX戦略は、「伝わる」コミュニケーション哲学とコールセンターへの投資を通じて実践されています。これはEXがCXを引き上げるという理論と重なります。

  • 「伝える」と「伝わる」の違い:相手が行動を起こして初めて「伝わった」といえます
  • 電話応対コンクール:2019年開始、2023年からグループ全体に拡大しました
  • J PRIDE LIFETECH:2026年7月開始のPB。顧客の声を商品企画に反映しています
  • EXからCXへの流れ:従業員への投資が、顧客対応の質を通じて還元されます
  • 財務への視点:従業員教育は、解約率改善とLTV向上を通じた投資です

自社の顧客対応の現場で、「伝えたつもり」になっている接点がないか、見直してみるとよいでしょう。