TikTok Shopは、動画やライブ配信を見ている最中に、気になった商品をそのままアプリ内で購入できるサービスです。2025年6月に日本での提供が始まりました。運営会社が2026年2月に公表したところでは、半年で登録事業者数が5万店を超えるなど急速に拡大しています。
「商品を検索してから買う」のではなく「動画を楽しんでいるうちに出会って買う」。この購買の流れは、これまでのECサイトやSNSマーケティングとは異なる特徴を持っています。この変化は、CX(顧客体験)の観点からも見逃せない意味を持ちます。
本記事では、TikTok Shopの仕組みと日本市場での広がりを整理します。そのうえで、この動きがCX理論とどうつながっているのかを解説します。
目次
TikTok Shopとは
TikTok Shopとは、ショート動画アプリ「TikTok」上で、商品の閲覧から購入までを完結できるショッピング機能です。
TikTok Shopは、動画配信プラットフォーム「TikTok」を運営するTikTok Japanが提供するEC機能です。2025年6月30日に日本での提供が始まりました。商品を紹介するショート動画やライブ配信に、購入ボタン(ショッピングタグ)を直接組み込めます。視聴者はアプリを離れることなく、購入手続きまで進められます。
化粧品や美容家電、食品などを扱う企業がすでに参入しています。ライブ配信中に実演を見せながら質問に答え、その場で購入につなげる使い方が広がっています。
検索型から発見型への転換
これまでのECサイトでは、欲しい商品名やキーワードを自分で検索して探すのが基本でした。TikTok Shopでは、おすすめフィードの動画を眺めているうちに、探していなかった商品と偶然出会う流れが中心になります。この違いが、次に説明する「ディスカバリーコマース」という考え方につながります。
ディスカバリーコマース(発見型コマース)の仕組み
ディスカバリーコマース(発見型コマース)とは、顧客が能動的に検索する前に、コンテンツを通じて商品と出会う購買のあり方です。
TikTok Shop自身も、自社の取り組みを「ディスカバリーEコマース」と表現しています。本記事では表記を「ディスカバリーコマース」に統一して解説します。この仕組みを支えるのは、主に次の3つの機能です。
- 買い物カート付きショート動画:商品タグを付けた動画を視聴中に、そのままカートに追加できます
- ライブコマース:配信者がリアルタイムで商品を紹介します。視聴者は配信を見ながら質問・購入ができます
- ショップページ:ブランドや店舗のアカウントに商品一覧・レビューをまとめます。動画から流入した顧客が回遊できます
これらの機能に共通するのは、「見る」から「買う」までの間にある手間を、できる限り減らす設計になっている点です。
日本市場での成長と、残る課題
TikTok Shopは日本での提供開始から半年で利用が拡大した一方、企業側にはまだ慎重な姿勢も残っています。
TikTok Japanが2026年2月に公表したデータによると、日本での提供開始から半年間で登録事業者数は5万店以上に拡大しました。これは提供開始時の約3倍にあたります。クリエイター数は20万人以上、商品を購入した利用者数も半年間で20倍以上に増えたとされています。特に、流通総額の約70%が動画やライブ配信をきっかけにした購入だった点は注目に値します。利用者の年齢層も18〜34歳と35歳以上がほぼ半数ずつで、若年層に限らない広がりを見せています。
これらはいずれも運営会社自身が公表した数値であり、第三者機関による検証を経たものではない点には留意が必要です。実際、日本経済新聞は2025年8月時点の取材で、国内企業の出店検討割合が調査対象の1割程度にとどまると報じています。同紙は、日本市場では過去にも「動画コマース元年」と言われながら定着しなかった経緯があると指摘しています。急成長を示す数字と、企業側の様子見姿勢は、どちらも実態の一面だと捉えるのが妥当でしょう。
従来のECやSNSショッピングとの違い
TikTok Shopの特徴は、「認知」と「購買」が同じ画面・同じ瞬間に起きる点にあります。
従来型のECサイトでは、SNSや広告で商品を知ったあと、いったんブラウザやアプリを切り替えてから購入するのが一般的でした。この切り替えの間に、「やっぱりやめておこう」と離脱してしまう顧客も少なくありません。カスタマージャーニーの考え方に沿っていえば、TikTok Shopは「認知」「情報収集」「購買」という複数のフェーズを圧縮しています。それらを1つのタッチポイントの中に収めた設計だといえます。
TikTok ShopとCX理論の関係
TikTok Shopの設計は、顧客が購買にかける「努力」を減らすほど購買行動が起きやすくなるというCXの考え方と整合しています。
CES(顧客努力指標)は、顧客が問い合わせや購入手続きで感じる負担を測る指標です。この負担を減らすことは、離脱や不満を防ぐうえで重要だとされています。TikTok Shopが「アプリを離れずに買える」設計にこだわっているのは、比較検討や画面の切り替えといった顧客の負担を極力減らすためだと考えられます。
この発想は、苦労キャンセルで取り上げた「手間や心理的な負担を、技術やお金で省略する」という消費者側の価値観とも重なります。TikTok Shopは、企業側が顧客の「探す苦労」をあらかじめ肩代わりする仕組みだと捉えることができます。
自社のCXを見直す際にも、この視点は応用できます。問い合わせから購入までに何回もページを移動させていないか、比較検討の材料を顧客自身に探させていないか。一度点検してみてください。顧客が「探す」「比較する」「切り替える」といった負担を感じている接点を1つでも減らせれば、購買の後押しになる可能性があります。
事業者が押さえておくべき注意点
TikTok Shopに出店する事業者(セラー)は、プラットフォームの規約と国内の法令の両方を守る必要があります。
TikTok Shopで商品を販売する事業者を「セラー」と呼びます。セラーとして出店する場合、通信販売として特定商取引法の対象になります。消費者庁は、価格や送料、支払方法、商品の引渡時期、返品条件、事業者の氏名・住所・連絡先の表示を義務づけています。実際より著しく優良に見せる誇大な表示も禁止されています。
たとえば、「今だけの特別価格」と訴求する場合を考えてみてください。その際、価格や返品条件、事業者情報を、商品ページなど消費者が確認できる場所に表示していなければ、この義務に反するおそれがあります。こうした表示の不備は、法令上のリスクにとどまりません。「話が違う」「返品できると思わなかった」という不信感につながり、顧客体験そのものを損ないます。TikTok Shop側の規約も複数の文書に分かれており、更新も頻繁です。出店を検討する場合は、TikTok Shopのセラーポリシーと消費者庁の通信販売ガイドの両方に事前に目を通したうえで進めることが望ましいといえます。
まとめ
TikTok Shopとは、動画やライブ配信を見ながらその場で購入できる「ディスカバリーコマース(発見型コマース)」です。日本上陸半年で急成長を示す一方、企業側には慎重な姿勢も残っています。顧客の購買努力を減らす設計は、CX理論とも重なります。
- ✓TikTok Shop:動画・ライブ配信の視聴中に商品を購入できるショッピング機能です
- ✓ディスカバリーコマース:検索ではなくコンテンツを通じて商品と出会う購買のあり方です
- ✓急成長する日本市場:運営会社の公表では、提供開始半年で登録事業者数5万店・クリエイター数20万人超に拡大しました(第三者検証前の自社公表値)
- ✓認知と購買の一体化:カスタマージャーニーの複数フェーズが1つのタッチポイントに圧縮されています
- ✓CES・苦労キャンセルとの接続:顧客の「探す努力」を減らす設計が購買の後押しになります
自社の購入・申込プロセスを一度見直してみてください。顧客が「探す」「比較する」「切り替える」といった負担を感じている接点がないか、洗い出すところから始められます。