コミュニティマーケティングとは、顧客同士が交流する場を通じてブランドとの関係を深めるマーケティング手法です。広告費の高騰や口コミの影響力拡大を背景に、注目が高まっています。
似た概念に「ファンマーケティング」がありますが、両者は同じものではありません。本記事では、コミュニティマーケティングの基本を整理します。そのうえで、ファンマーケティングとの違いと、CX(顧客体験)とのつながりを解説します。
コミュニティマーケティングとは
コミュニティマーケティングとは、顧客同士が交流できる場を企業が用意する手法です。そこで生まれるつながりを通じて、ブランドとの関係を深めていきます。
企業が一方的に情報を発信するのではありません。顧客同士が感想を交換したり、使い方を教え合ったりする場を作ります。そこで生まれた信頼関係が、ブランドへの愛着に変わっていくという発想です。
この場は「顧客コミュニティ」や「ブランドコミュニティ」とも呼ばれます。オンラインコミュニティ・ユーザー会・SNSグループなど、場の形はさまざまです。共通するのは、「企業対顧客」ではなく「顧客対顧客」の関係を中心に設計している点です。企業の役割は、発信することではありません。顧客同士が話しやすい環境を整え、後方から支えることに変わります。
ソフトウェア製品のユーザーコミュニティを例に考えます。使い方に迷った利用者が、サポート窓口ではなく先に他の利用者へ質問することがあります。経験者が実例つきで答える、というやり取りが日常的に起きるのです。企業からの説明よりも、同じ立場の利用者からの実体験のほうが、納得感を持って伝わることが少なくありません。この「顧客が顧客を助ける」流れが積み重なると、変化が起きます。サポートの負荷が下がるだけでなく、参加した顧客自身の理解と愛着も深まっていくのです。
国内の実践知見をまとめた一冊として、小島英揮氏の著書があります。『ビジネスも人生もグロースさせる コミュニティマーケティング』(日本実業出版社、2019年)です。著者はAWSジャパン在籍時に、ユーザーコミュニティ「JAWS-UG」の立ち上げ・支援に携わった人物として知られています。より具体的な運営手法を学びたい場合の入り口として参考になります。
コミュニティマーケティングが注目される背景
広告費の高騰と、個人発信への信頼の高まりという2つの変化が、コミュニティへの注目を後押ししています。
広告費が高騰し、新規顧客の獲得コストが上がり続けています。その一方で、SNSの普及により、個人の発信が企業の広告よりも信頼されやすくなりました。この2つの変化が重なり、「既存顧客に、無理なく自然に発信してもらう」という発想に注目が集まっています。コミュニティは、この自然な発信が生まれる土壌として機能します。
ファンマーケティングとの違い
コミュニティマーケティングは「場」の設計であり、ファンマーケティングは「関係性」を育てる戦略全体を指します。
両者はしばしば混同されますが、指しているものが異なります。ファンマーケティングは、熱狂的な顧客(ファン)を育てるための戦略全般です。イベント・限定コンテンツ・SNS施策など、手段は多岐にわたります。一方コミュニティマーケティングは、そのファンが生まれ、互いに影響し合うための「場」そのものの設計を指します。コミュニティは、ファンマーケティングを機能させるための土台の1つだといえます。
コミュニティマーケティングとCX理論の関係
CX(顧客体験)とは、顧客が製品・サービスと関わるすべての場面での体験の総体を指します。コミュニティは、この体験を顧客自身が作り出す珍しいタッチポイント(顧客接点)です。
広告や店頭対応など、多くのタッチポイントは企業側が一方的に用意するものです。これに対してコミュニティは、顧客同士のやり取りそのものが体験の中身になります。企業が直接コントロールできない分、そこで生まれる体験は顧客にとって「自分ごと」になりやすいという特徴があります。
この体験がブランドとの関係にどう表れるかを示すのが、顧客ロイヤルティという考え方です。ロイヤルティには「また買う」という行動面と、「このブランドが好きだ」という感情面の両方があります。適切に運営されたコミュニティは、この感情面のロイヤルティを育てる装置になり得ます。顧客同士のやり取りを通じてブランドへの理解が深まり、単なる繰り返し購入では生まれない愛着が育つ可能性があるためです。ただし、これは自動的に起きるものではありません。排他的な空気や誤情報の放置は、逆にCXを損なう場合もあります。
コミュニティが顧客ロイヤルティを支える経済合理性
ハーバード・ビジネス・レビューに掲載された研究があります。それによると、調査対象となった複数のサービス業があります。そこでは、顧客離脱率を5%改善するだけで利益が大きく押し上げられたと報告されています。ただし、これはコミュニティ施策そのものの効果を検証した研究ではありません。業種や収益構造によって効果の大きさは変わります。チャーンコストで解説した通り、既存顧客を維持するコストは、新規顧客を獲得するコストより低く済むことが一般的です。コミュニティを通じて既存顧客のロイヤルティが実際に高まった場合は、この経済合理性を後押しできる可能性があります。
ただし、注意も必要です。コミュニティで生まれる関係が、本物のロイヤルティなのか見せかけのものなのかを見極める視点も欠かせません。見せかけのロイヤリティで解説した通り、単に「他に選択肢がないから使い続けている」という関係もあります。これは真のロイヤルティとは異なります。コミュニティ内の発言が活発でも油断はできません。それが「好きだから」なのか「他に行き場がないから」なのか、見分ける視点を持つ必要があります。
導入する際に注意したい落とし穴
コミュニティマーケティングで最も避けたいのは、企業の販促目的が前面に出てしまうことです。
コミュニティの主役は顧客同士のやり取りであり、企業からの一方的な告知ではありません。売り込みの色が強くなると、顧客は本音を話さなくなり、コミュニティは形だけのものになってしまいます。運営側は、顧客同士の会話を後押しする役に徹する姿勢が求められます。
また、コミュニティが自走するまでには時間がかかります。参加者同士が自然に会話を交わすようになるには、一定の期間が必要です。短期的な成果を急ぎすぎないことも重要です。参加人数やページビューといった量的な指標だけを見ないことです。「顧客同士のやり取りがどれだけ生まれているか」という質的な変化も、あわせて見ていく姿勢が欠かせません。
まとめ
コミュニティマーケティングとは、顧客同士が交流する場を通じてブランドとの関係を深める手法です。ファンマーケティングを支える土台であり、既存顧客のロイヤルティを育てるCX施策として機能します。
- ✓コミュニティマーケティング:顧客同士が交流する場を通じてブランドとの関係を深める手法です
- ✓注目される背景:広告費の高騰と、個人発信への信頼の高まりが重なっています
- ✓ファンマーケティングとの違い:コミュニティは「場」の設計、ファンマーケティングは「関係性」を育てる戦略全体です
- ✓CXとの接続:顧客同士の関わりが、感情面のロイヤルティを育てます
- ✓注意点:企業の販促目的を前面に出さず、顧客同士の会話を後押しする姿勢が欠かせません
自社の既存顧客の中に、すでに自然発生的に情報交換している場がないか、まずは探してみてください。それが、コミュニティマーケティングの出発点になります。