CXへの投資は売上とどう関係しているのでしょうか。この問いを考えるヒントになる、決算数値を公表している企業が実際に存在します。

本記事では、コストコとスターバックスという2社を取り上げます。両社が公表している会員更新率や売上構成比といった財務指標から、CXの取り組みが業績にどう表れているのかを見ていきます。

事例の紹介だけで終わらせず、CX理論とどうつながるのか、自社に応用する際に何を測ればよいのかまで整理します。


CXと財務指標はなぜ結びつくのか

CXの成果は、更新率や購入頻度といった顧客KPIに表れます。そしてそれが、会員費収入や売上構成比という財務指標につながります。

顧客ロイヤルティが高まると、顧客は離脱しにくくなり、購入頻度も上がります。この変化は、LTV(顧客生涯価値)という指標に集約されます。理屈は理解できても、「実際にどの企業がどれだけの成果を上げているか」は見えにくいものです。

ここからは、各社が公表した決算数値や、それを報じた記事をもとに見ていきます。この関係が実際の数字としてどう表れているかを確認します。


コストコ|会員更新率89.8%が支える収益基盤

コストコは、会員更新率という1つの指標に、CXへの取り組みの成果が集約される事業モデルを持っています。

コストコは会員制の倉庫型小売企業です。同社の2025年度(2025年8月期)第4四半期決算を報じた記事によると、会員更新率は米国・カナダで92.3%でした。全世界では89.8%でした。会員費収入は同四半期だけで17.24億ドルに達しています(1ドル=150円で参考換算すると約2,586億円)。前年同期比では14%の増加です。

更新率という指標に収益基盤が支えられている

この数字が重要なのは、コストコの収益構造に関わるからです。同社は商品販売に加えて、継続的な会員費収入を収益基盤の重要な柱としていることで知られています。つまり、会員が「更新し続けたいと思える体験」を提供できているかどうかが、事業の安定性に直結する設計になっています。約9割という更新率は、多くの会員が期待した体験を得られている結果だと解釈できます。


スターバックス|リワード会員が売上の約6割を生む理由

スターバックスは、ロイヤルティプログラムの会員取引が売上の大部分を占める構造を作り上げています。

スターバックスは2026年1月に決算資料を公表しました。それによると、2025年度(2025年9月期)の米国直営店売上のうち約60%をリワード会員が占めていました。リワード会員とは、公式ロイヤルティプログラム「Starbucks Rewards」に登録した会員のことです。取引の主体が、この会員によるものだったということです。この比率は、ロイヤルティプログラムの規模としては過去最高水準です。ロイヤルティ会員数についても、2026年2月時点で過去最高の3,550万人に達したと報じられています。

CXの成果と経営課題は分けて評価する

ここで区別しておきたいのは、数字の対象期間です。上記の「約60%」は2025年度通期(2025年9月期)の数字でした。一方、その直後にあたる2026年度第1四半期(2025年12月28日締めの13週間)を見ると、様子が異なります。この四半期のGAAP(米国会計基準)に基づく営業利益は、前年同期比で20.6%減少しました。同じ四半期には、労働組合によるストライキも重なっています。ただし、ストライキが減益にどこまで影響したかは、決算資料からは特定できません。

つまり、リワード会員比率の高さと、直近四半期の減益は、別々の事実として捉える必要があります。リワード会員比率は米国事業における顧客基盤の強さを示しています。ただし、それだけで営業利益の落ち込みを相殺できているわけではありません。CXの取り組みは万能薬ではなく、他の経営課題と並行して評価すべきものだといえます。


2社の事例から見えるCX投資の共通点

両社に共通するのは、CXの成果を「顧客が自ら関係を継続したくなる仕組み」として設計している点です。

コストコの会員更新率も、スターバックスのリワード会員比率も、企業が一方的に売り込んだ結果ではありません。顧客が自分の意思で会員資格を更新し、繰り返し利用したいと思える体験を積み重ねた結果として表れる数字です。手続きや利用時の負担を減らすことは、CES(顧客努力指標)の改善につながります。この積み重ねが、継続利用や顧客ロイヤルティを支える一因になっていると考えられます。

同時に、両社の事例は「相関」であって単純な「因果」ではない点にも注意が必要です。会員更新率や売上構成比の高さには、価格戦略やブランド力、店舗網の広さなど、CX以外の要因も影響しています。CXの取り組みだけがこれらの数字を生み出したと断定はできません。それでも、顧客が継続を選び続けている事実そのものは、CXへの投資が無関係ではないことを示しています。

もう1つ見逃せないのは、更新率や継続率の高さが、コストの面でも意味を持つという点です。チャーンコストで解説した通り、顧客離脱は将来の収益機会を失わせます。加えて、その穴を埋めるための新規獲得コストも発生させます。継続率の改善は、収益面とコストの両面で意味を持ちます。これは、両社が更新率・継続率を重視する背景を理解する1つの視点になります。


自社のCXを財務指標で語るために

自社のCXの成果を語る際も、満足度調査だけでなく財務に近い指標を併用することをおすすめします。継続率や購入頻度がその代表例です。

CXのROI(投資対効果)で解説した通り、CXの成果は売上・解約率・LTVといった財務指標に変換して初めて経営層に伝わりやすくなります。自社のビジネスモデルに合った指標を1つ選んでみてください。会員制サービスであれば更新率、サブスクリプションであれば継続率、店舗ビジネスであればリピート購入の頻度が候補になります。

その指標を定点観測することが、CXへの投資が実際に成果を上げているかどうかを判断する土台になります。


まとめ

CXの取り組みは、コストコの会員更新率やスターバックスの売上構成比のように、財務指標として確認できます。ただし相関と因果は分けて捉える必要があり、自社でも継続率のような指標を定点観測することが出発点になります。

  • コストコ:会員更新率は米国・カナダ92.3%、全世界89.8%(2025年度・決算報道に基づく)
  • スターバックス:リワード会員が米国直営店売上の約60%を占める(2025年度・決算資料に基づく)
  • CXと財務指標の関係:継続率・売上構成比という数字は、顧客が自ら関係を継続したいと思った結果です
  • 相関と因果の区別:CX以外の要因も影響するため、数字の高さをCXだけの成果と断定しない姿勢が必要です
  • 自社への応用:満足度調査に加え、継続率・購入頻度などの財務指標を1つ選び、定点観測することから始められます

自社のCXの成果を語るとき、まずはどの財務指標を定点観測するかを決めるところから始めてみてください。