NRRは既存顧客からの継続売上を、増額も含めて測る指標です。GRRは増額を含めず、解約と減額によってどれだけ売上を失ったかを見ます。同じ既存顧客群を対象にして、増額を加えるかどうかが主な違いです。Stripeの解説でも、この違いと計算式を示しています。

NRRが100%を超えていても、解約が起きていないとは限りません。この記事では5社の架空の月額売上から両方を計算し、新規顧客を混ぜずに、増額と売上流出を分けて読む方法を説明します。


NRR・GRR・顧客維持率の違い

NRRとGRRは売上を、顧客維持率は顧客の人数や社数を見ます。

NRRはNet Revenue Retention、GRRはGross Revenue Retentionの略です。月次経常収益を表すMRRは、継続する契約の月額相当の売上です。一時的な導入費を含める集計とは区別します。ここでは月額契約のMRRを使い、月初から月末まで同じ顧客群を追います。

指標見るもの増額の扱い主に確認する問い
NRR既存顧客の継続売上加える既存顧客の売上は全体で維持・拡大できたか
GRR既存顧客の継続売上加えない増額を除くと、どれだけ売上が残ったか
顧客維持率既存顧客の人数・社数金額は直接使わない期首の顧客の何割が残ったか

ChartMogulのGRR定義では、GRRは100%が上限です。NRRは増額によって100%を超えます。同じ期間・定義で増額が0以上なら、NRRはGRR以上です。増額0の場合は等しくなるため、常にNRRの方が大きいわけではありません。


計算式と集計する範囲

分母を期首の既存顧客売上に固定し、新規顧客の売上を除きます。

NRR(%)=(期首MRR+増額MRR−減額MRR−解約MRR)÷期首MRR×100

GRR(%)=(期首MRR−減額MRR−解約MRR)÷期首MRR×100

ChartMogulの指標資料にも両式が掲載されています。期首MRRが0なら、この形の比率は計算できません。

集計条件として、期首に有料契約中の顧客IDを固定します。追加の席購入は増額、契約規模の縮小は減額、契約終了は解約として記録します。新規契約、休止からの復帰、通貨換算、料金改定、一時的な値引きの扱いは自社の定義へ明記し、比較時にそろえてください。

短い期間に減額と増額が何度も起きる契約では、動きの集計方法と期首・期末の比較が一致するかを確かめます。請求額とMRRも必ず同じではありません。年額契約を含めるなら月額相当へ換算し、どの時点の契約状態を使ったかを残します。


5社の月額売上から計算する

説明用の架空例では、同じ5社の売上を使うと、NRR105%とGRR80%の両方が成立します。

以下の計算では、金額は月額契約のMRRで、単位は万円です。月初に契約中だったA〜Eの5社を対象にします。月内の契約変更は各社1回で、復帰・値引き・通貨変動はありません。Fは月内の新規顧客なので計算対象外です。

顧客月初MRR月末MRR区分
A40万円65万円増額25万円
B25万円20万円減額5万円
C15万円0万円解約15万円
D10万円10万円変更なし
E10万円10万円変更なし
F対象外20万円新規なので除外

期首MRRは40+25+15+10+10=100万円です。増額は25万円、減額は5万円、解約は15万円。NRRは(100+25−5−15)÷100×100=105%です。GRRは(100−5−15)÷100×100=80%です。

月末の既存5社は合計105万円、新規Fを含む全体は125万円です。125÷100をNRRとすると125%になり、新規獲得の影響が混ざります。また顧客維持率は、期首5社のうち4社が残ったので80%です。今回はGRRと偶然同じ値ですが、同じ指標ではありません。


NRRが伸びてもGRRを確認する理由

増額した顧客の成果と、減額・解約した顧客の事情を別々に調べます。

この例では、Aの増額25万円がB・Cの流出20万円を上回り、NRRは105%になりました。しかしCは契約を終了し、Bも縮小しています。「すべての顧客が満足した」とは読めません。契約単価、導入時期、利用目的ごとに分け、流出が集中する顧客群を確認します。

NRRの増加が価格改定によるものなら、利用拡大による増額と区別します。GRRが低下した場合も、顧客対応だけが原因とは限りません。顧客側の事業縮小、商品との適合、利用開始時の障害などを、記録や聞き取りから確かめます。

社数の維持については顧客維持率、一人の顧客との取引期間全体の価値については顧客生涯価値(LTV)と合わせて確認できます。ただしNRRをそのまま利益率やLTVへ置き換えることはできません。


比較するときのチェック

期間・顧客群・MRRの定義が違う数値を直接並べないようにします。

同じ月数で比べているか、期首に有料だった顧客が対象か、一時費用や新規契約を除いたか、復帰や価格改定の扱いが同じかを確認します。他社の年次NRRと自社の月次NRRは、観測期間が違います。自社の推移でも、集計方法を変えた月は変更日を記録してください。

支援施策の評価では、施策を受けた群と比較可能な群で同じ期間を追います。単価構成や契約更新時期も影響するため、前後のNRR差だけで施策の効果を確定しません。目標値は販売モデルや契約構造を踏まえて設定します。業種を問わず適用できる合格基準を、この例だけでは決められません。


まとめ

NRRは増額を含む売上維持、GRRは増額を除いた売上維持を示します。

  • ✓期首に存在する同じ顧客群を追い、新規顧客を除きます。
  • ✓NRRは100%を超えることがあり、GRRの上限は100%です。
  • ✓NRRが高くても、減額や解約がないとは限りません。
  • ✓期間・MRR・復帰・価格改定の扱いをそろえて比べます。

期首顧客の一覧から、月初MRR、月末MRR、変更区分を並べてください。総額を確認して両指標を計算し、増額と流出のそれぞれに理由を付けるところから始められます。